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「徹子の部屋」のガチ伝説。

2008年12月23日

トットちゃんは、ガチンコである。
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ご存じ『徹子の部屋』。
黒柳徹子が司会を務めるテレビ朝日系列で放送されているトーク番組である。
1976年2月2日スタートというから、来年で33年目を迎える長寿番組。
あの妙な間の対談には、黒柳徹子さんのこだわりが営々と守り続けてこられたのだ。



ご存じの方も多いと思うが・・・
この番組を始めるにあたり、黒柳徹子さんがテレビ朝日に出した条件が
「編集をしないこと(いわゆる撮って出しの手法)」であったという。
そして、30年を越えた今も、そのこだわりは続いている。
8000回以上、ゲストタレントとガチンコ勝負しているわけである。それだけで、凄いっ。


ではなぜ、黒柳徹子さんは、「撮って出し」にこだわっているのか・・・。
その真意を語るコメントを見つけたのでここに転載する。


『聞き上手は一日にしてならず』(永江朗著)より。

永江:なぜ編集しないことにしたんですか。
黒 柳:
編集して面白いところだけ集めてしまうと、その方がどういう方かわからないでしょう。だって同じ言葉でも、「うーん」と考えこんで返事したことかもし れないし、即答だったかもしれない。編集で「うーん」を切っちゃったら、その方がどういう方か伝わらないでしょう? ラジオなら何十秒も音がなかったら事故ですが、テレビは「うーん」と考えていらっしゃる間、顔をうつせます。だから編集をしないためにも、打ち合わせは重要です。何回も出ていただいている方でも、必ず毎回打ち合わせをするんですよ。うんと仲のいい方でも。しないのは永六輔さんと小沢昭一さんぐらい(笑)。それと、もうひとつ、毎日編集した ら、絶対に雑になりますよね。


永江:そうなんですか。
黒柳:
それはそうでしょう。あんな長いものを編集したら。40分の 番組を作るのに、60分録って20分カットするのは並大抵のことではありません。そんなことを毎日やっていたら絶対に雑になっちゃう。一週間に1回の番組 なら面白いところだけを集めてもいいんだけど。3つめの理由は、編集すると、ゲストが「あそこをカットしてくれ」と言ったり、プロデューサーが「あそこを 残したい」と言ったり、私も「ここを残して欲しい」とか、意見が合わなくなるから。それは大変ですから、とにかくナマと同じで勝負。編集はしないということを原則にしています。そうそう、編集をしないから、と、本心を話して下さるゲストも多いです。テレビ局の意志、番組の意志で、なんとでもなりますよね、 編集すると。話した事、すべてそのまま出るなら、と、すべて話して下さるかたが多いのも、ナマと同じだからです。



そのコメント通り、数あるタレントがガチで告白している歴史がウィキペディアに載っている。


和田アキ子はこの番組で黒柳さんだから申し上げるんですけれどと、自身の病気が子宮ガンだったことを告白した。小川宏が自らの自殺未遂・うつ病体験を初めて告白したのもこの番組。2001年には伊原剛志が在日朝鮮人であることを告白したほか、2003年には大空眞弓がガンに罹患していることを公表している。また武田鉄矢が初めて鬱病体験を語ったほか、1977年に逮捕された際に在日朝鮮人であることが明らかとなった岩城滉一が自らの口で出自に関する告白をしたのもこの番組である。


恐るべし「徹子の部屋」。


番組自体は、平日放映故に、見る機会は少ないのではあるが・・・
時折見ると、その独特の間と、冗長な空気感に、こころにさざ波が立つ。
これでいいのか?ゲストは納得しているのか?こちらが心配になるほどだ。


それもそのはず・・・
前著中で、どういう収録スケジュールかも述べている。
毎週月曜日と火曜日に、まとめて6本を収録するのだそうだ。
1人のゲストとは、約1時間強の打ち合わせをしっかりやって、
黒柳徹子さん自身の手書きのメモ用紙が12枚程度できる・・・。
そのメモを頼りに収録に挑むというのが恒例らしい。


情報はディレクターやスタッフが用意するにしろ・・・
ゲスト1人についての直接的な情報収集は、約1時間。
この番組は、「黒柳徹子さんの断片的なゲストへの思いこみ」だけで進行されている。
その上、「まとめ撮りかつ編集なし」。
ゲスト泣かせの番組であることに違いない。


しかし、よーく考えてみると・・・
つまらないところはカット。面白いところは、テロップで強調。
言いたことの主旨を歪めて、視聴者の面白い方へと話しが捏造される昨今の番組に比べると
『編集して面白いところだけ集めてしまうと、その方がどういう方かわからないでしょう。だって同じ言葉でも、「うーん」と考えこんで返事したことかもしれないし、即答だったかもしれない。編集で「うーん」を切っちゃったら、その方がどういう方か伝わらないでしょう? 』という、黒柳徹子さんは、いまどき正当派のガチンコではないか。


編集によって、「本心」を歪めるくらいなら・・・
撮って出しで、「どういう方か」をさらけ出して貰う。
「徹子の部屋」は、優しくて手強いジャーナリズム精神溢れる対談番組だったのだ。



そのガチンコがネット上で伝説になっている放送回がある。
2005年3月21日放送分。ゲストは、ボビー・オロゴン。
そのやりとりは、文字で抜き出しただけでもドキドキする。


黒柳:あなた子どもの頃から嘘ばっかりついてるの?
ボビー:ついてない。ついてない。
黒柳:もうね、そういう風に、あの、攻撃って分かります?攻撃的って。
ボビー:うん。分かる。分かる。
黒柳:あたし攻撃的に言えってならいくらでもあなたに言えるのよ? でもゲストだと思うからお話をちゃんと承りましょうって。 承るって分かります?
ボビー:すみません 。
黒柳:お話を聞こうかな、って思ってたんですけどー。
あなたがそうなんだったら、私はそれに合わせることはできるんですよ。
ボビー:いやいやいや。おとなしくしてください。えへへ。
黒柳:ははは。おとなしくしてください?
ボビー:あわわわ。おとなしくします。
黒柳:あー、んじゃ私は大人しくします。


そして、収録も終わろうとする頃。


ボビー:最後に質問あるんだけど。
黒柳:なにかしら?
ボビー:その頭はカツラ?それともニセモノ?
黒柳:ちがいます!生え際をみてちょうだい!
ボビー:うわ~。
黒柳:ねー、ちゃんとあるでしょ?生え際。
ボビー:ほんとだぁ。すげー。前からすげーカツラだと思ってたんですよ。


ナマでボクシングの試合を見ているようだ。
これぞ「徹子の部屋」の真骨頂。
「編集をしないこと」
「うーん、あのぉー、沈黙もコミュニケーションだと捉えること」
「思いこみでどういう方かを聞き出すこと」
視聴者の思惑にも、ゲストの期待にも、一切答えない。
マイペースが真骨頂の「徹子の部屋」。
インターネット的で、かなり斬新ではないだろうか・・・。


情報の氾濫は、「編集をする」ことを付加価値とし、
技術の進化は、「編集をする」ことを容易にした。
しかし、編集上手ばかりが、この世に増えてもろくな事はない。
編集上手は、視聴者を、思考停止に導くことが仕事になる。


『編集をしないから、と、本心を話して下さるゲストも多いです。』という逆説を行くテレビ番組に、
いまだからこそ、改めて付加価値を感じる。
こんなに「読み取る余白の多い番組」は、いまどき奇蹟に近い。
誰の思惑からも孤立した「徹子の部屋」が続くことに、テレビの良心を見る気がする。


だから、日本の政治家は、全員、この番組で出ることをお薦めする。
政見放送や報道番組より、よっぽど、視聴者の正しい判断を促すことができると思うが・・・。

執筆者: 中村修治/へそ社長