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『俺はまだ本気出してないだけ』
「このマンガがすごい!2009」が先月発売された。
そのオトコ編ランキングに並んだ漫画から、とてもお薦めしたいものがある。
漫画好きと自称する麻生太郎首相にも、ぜひ読んでもらいたい。
これを読んでから、ぜひニート対策を練ってもらいたい。
「このマンガがすごい!2009」オトコ篇のランキングは、下記のようになっている。
▼オトコ編
1・聖☆おにいさん 中村光 講談社
2・宇宙兄弟 小山宙哉 講談社
3・GIANT KILLING 綱本将也(作)/ツジトモ(画) 講談社
4・3月のライオン 羽海野チカ 白泉社
5・深夜食堂 安倍夜郎 小学館
6・きのう何食べた? よしながふみ 講談社
7・アオイホノオ 島本和彦 小学館
8・よつばと! あずまきよひこ アスキー・メディアワークス
9・俺はまだ本気出してないだけ 青野春秋 小学館
10・ファンタジウム 杉本亜未 講談社
中年のサラリーマンでもタイトル買いをしそうなのが、
見事9位にランキングされているじゃないだろうか。
あのホリエモンも自分のブログで「切なくなる漫画」として紹介している。
実は、隠れファンの多い漫画なのである。既に、いろんなところで取り上げられている。
主な登場人物は、
大黒シズオ=漫画家を目指して、バイトにいそしむ41歳。大黒鈴子=シズオの娘。17歳。大黒史郎=シズオの父。3人暮らしである。
あらすじは、タイトル通り。
「俺はマンガ家になる」と40歳で会社を辞めた大黒シズオ。夢を追いかける生活に入ったが、父親からは顔を見るたびに説教され、幼なじみからは本気で心配され、17歳の娘に温かく見守られるばかりか、おこづかいまでもらう。怠惰と自嘲に埋もれたダメな大人の毎日が描かれている。風貌も小太りな中年親父。若いバイト仲間にはからかい半分で「店長」と呼ばれるイタすぎる男。まことに残念な中年のスライスオブライフなのである。
マンガ家を目指すとかいっときながらマンガを書いたことない。父親から「ファミコンなんてやめろ!」といわれたら「ファミコンじゃねーよ。プレステだよ。」と答える小学生並みの中年。そんなダメな男の話は、読みたくない。でも、あぁぁぁ・・・・やっぱり読みたくなる。そこには、『俺はまだ本気出してないだけ』って、ダメな人間の決まり文句として流通しているだけでなく、そこには、ある種の今どきな共同体を形成できそうな響きがある。それって、何だろうかと考えてみる・・・。
自分が思うほどに世間から評価されていないことに不満を感じているヒトは多いと思う。そういう不満を抱えているヒトほど「自分はまだ本気出してないだけだから」と言い訳する。ないしは、「この俺の価値を分からないなんて社会が馬鹿」と呪う。
しかし、何かやるとなったら・・・そういう人たちに限って・・・
【1月】 初っ端から飛ばすと後でばてる。2月から本気を出す
【2月】 まだまだ寒い。これではやる気が出ない。3月から本気出す
【3月】 年度の終わりでタイミングが悪い。4月から本気を出す
【4月】 季節の変わり目は体調を崩しやすい。5月から本気を出す
【5月】 区切りの良い4月を逃してしまった。6月から本気を出す
【6月】 梅雨で気分が落ち込む。梅雨明けの7月から本気を出す
【7月】 これからどんどん気温が上昇していく。体力温存の為8月から本気を出す
【8月】 暑すぎて気力がそがれる。9月から本気を出す
【9月】 休みボケが抜けない。無理しても効果が無いので10月から本気を出す
【10月】 中途半端な時期。ここは雌伏の時。11月から本気を出す
【11月】 急に冷えてきた。こういう時こそ無理は禁物。12月から本気を出す
【12月】 もう今年は終わり。今年はチャンスが無かった。来年から本気出す
「本気出さず仕舞い」で1年は、終わってしまうのである。「本気出しちゃっていいの?」「というわけで、俺、本気出すわ」などとうそぶきながら、1年は、あっという間に巡ってしまうのである。
もう良い大人なのに「自分はまだ何者でもない」と焦っているヒトは多い。傑出した人間ではないという自覚がありつつも、まだ「残念なヒト」にはなりたくないと抵抗している。
その極小の向上心による連帯感が「世界にひとつだけの花」を大ヒット化させた根底にあると思う。「ナンバーワンよりオンリーワン」だとか、そういう物言いが共同体全体のフレーズとなるのは、どんなヒトも極小の向上心を持っているということが前提となっている。日本の教育やメディアは、そこの気持ちよさそうところを行ったり来たりしているだけで、何も根本的なことは解決していない。
この時代、
「本気」にならなくても、喰っていけるのだ。
「本気」になることを知らなくても、やっていけるのだ。
そういう時代の感受性と、そういう共通のモチベーションからなる共同体があることをこの漫画は教えてくれる。『負けても悔いが残らないよう、精一杯頑張ろう』『人間って、本気になったら何でもできるって』と言うことの虚しさこそが寧ろリアルであることを炙り出してくれている。
「白馬に乗った自分様」は、そんなに簡単にやってこない。
「自分探し」がどうしようもない煩悩であり、「俺はまだ本気出してないだけ」と言うことが、どんなに虚しくて孤独なことかを共同体=読者にわからせようとすることこそ、この漫画の良心である。
「本気」じゃない「自分探し」は、巨大な煩悩であり。
「ナンバーワンよりオンリーワン」は、その煩悩遂行の呪文であり。
「俺はまだ本気出してないだけ」は、一番の逃げ道なのだ。
みうらじゅん氏は、中田英寿の引退にあたって使った言葉「新たな自分探しの旅」に対して週刊プレイボーイ誌上で次のようにコメントしている。
「中田さんみたいにそれなりに道を極めた人がリセットするから『自分探し』っていうのは意味があるんであって、我々一般人は自分という巨大な煩悩をいかに消していくかを考えた方がいいんじゃないかな。要するに『自分なくし』だよね」。
ゆるーい決意と煩悩のままに、あれこれ道を探しても、結局何も見つからない。しかし、その残念な状況を許容してくれる社会や共同体がある。そこに、極小の向上心を抱えたニートは生まれる。
そのニートに対して正しい説教ができるのは、「自分探し」は、結局、『自分なくし』だったんだよなぁと言えるかっこ良くてダメな大人である。究極の「自分探し」をしているような政治家の作ったレールの上に、ニート達が乗ってくるわけがない。
本当に「本気」になれるヒトの、「俺はまだ本気出してないだけ」は、耐え難い孤独のうちの心の叫びだ。そんな言葉に、何かの連帯感を感じた時点で、それは「本気」ではない。『俺はまだ本気出してないだけ』ってタイトルに惹かれた時点で、貴方は、たぶん「自分なくし」を始めた方がよい。
そして、ニートを正しく説教できるようなかっこ良くてダメな大人になることをお薦めする。
なので、・・・・かく言う私は、率先して「自分なくしの旅」に出ることにする。