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「給与明細」狂想曲っ。

2009年02月28日

今週は、「給与明細を他人にぶっちゃける」ニュースが世間を賑わした。
他人の給与明細って、確かに気になる。素直に見たいとも思う。
でも、それが現象として現れるとなると、ちょいと気になる。
この現象の先には、何があるのか考えてみる。

「給与明細を他人にぶっちゃける」ニュースその①
鹿児島のブログ市長、今度は職員給料268人分をHP公開
鹿児島県阿久根市の竹原信一市長(49)が、市のホームページ(HP)に2007年度当時の市長、教育長ら幹部を含む職員計268人の年収、給料、14項目の手当の明細を1円単位で公開したというもの。
この名物市長のやり口を、諸手を挙げて賛成できないが・・・公開された数字を見てみると。その強引な手法も、いたしかたなしと思わせる部分がある。これが、財政が苦しいと言われている地方の公務員の給料明細である。
ためになるので、一度、ご覧頂きたい。

鹿児島県阿久根市、ちっさな市だ。あの市町村合併でも、周辺市町村から毛嫌いされた程の、財政状況にある。阿久根市の市民総数は、24,356人 。そこに市職員は、総勢268人働いていて、その半数以上が年収700万円を超える高給取りであるというわけだ。若い公務員の給料は安いと聞くので、これは地方公務員全体の高齢化のなせる技とも言えそうだ。


小さな市だから、大きな法人もない。市のホームページによると、年間の税収は、約20億円。それに対して、総勢268人の市職員の人件費は、17億3千万円。税収の、実に、9割近くが職員の人件費って・・・ありえない。「職責や能力と給料の関係もデタラメとしか言いようがない」と市長が言うのも、一理ある。


下記は、その職員の中の1人の明細の例である。
給料 \3,840,900
扶養手当 \390,000
住居手当 \264,000
通勤手当 \78,000
時間外 \785,535
休日 \104,711
児童手当 \240,000
期末手当 \1,150,530
勤勉手当 \558,007
総額 ¥7,411,683
400万円に満たない給料に、300万円以上の手厚い手当てが付いている。通勤手当や児童手当は理解できるとして、期末手当や勤勉手当って何。どうやら民間で言うところのボーナスらしい。勤勉手当なんて項目にして目をくらませているらしいのだが・・・財務状況が赤字の行政に、ボーナスってないだろうってのが市民感情だろう。親方日の丸が、血税をムダにしやがってぇぇぇぇぇ・・・。


こうやって、給与明細のぶっちゃけは、公務員バッシングの好材料になる。ひとつのガス抜きだし、選挙を闘うためには、すごくわかりやすい論点でもある。しかし、阿久根市の地方公務員の給与明細公開ニュースを、そんなガス抜きや選挙対策に終わらせていいのか。


「格差社会」を生み出す起点は、阿久根市のニュースでわかるように・・・実は、「官民格差」にある。これは、日本全体の問題の本質に近い。日本の国家予算は約80兆円と言われているが、そのほとんどが国家公務員と郭外団体の給与になるらしいのだ。私たちの税金のほとんどは、公務員+官僚の給料にしかならない構造がある。


国民の税金で厚遇を受けている官僚や政治家が、財界と繋がることによって施策を決めて、実行する。その結果、生まれたのが「格差社会」である。「官」と「民」の意識の格差が、そのまんま給与の格差にもなっているのだ。


「給与明細を他人にぶっちゃける」ニュースその②
「下流過ぎて涙出てくる」 ネットに晒された20、30代「給与明細」
「給料日だし給与明細晒そうぜ!」――2009年2月24日、そんなスレッドが「2ちゃんねる」に立った。他人の給与がいくらなのか知りたい、というのはいつの時代でも同じだが、世界的不況の不安もあってなのか、結構話題になっているようで、「リアルに低すぎて、げんなりした」といった感想が書き込まれているというもの。

インターネットというメディアが生まれたからには、匿名で給与明細を公開する行為もいずれは現れて話題になるかと思っていたが・・・この時期に。

実は、給与明細をネットで公開するのが流行っている国が、既にあるのをご存じだろうか。その国では、この「給与明細を他人にぶっちゃける」行為を、「晒工資」と読んで、流行語にもなっている。文字通り、工資=給料を晒す。



そう、中国である。


日経オンラインのニュースによると、
1978年に始まった「開放・改革」政策から92年の「社会主義市場経済」への動きを通じて、中国では所得の格差が徐々に大きくなっていった。しかし、従来の所得格差はそれほど大きなものではなく、給与明細を見なくとも、職業や職位、労働年数を考慮すれば、給与水準を推測することができた。


ところが、その後の中国経済の急速な発展は「社会主義市場経済」という枠を完全に通り越して、こてこての「資本主義経済」に傾斜して弱肉強食の色 合いを強めていった。時代の趨勢に適応することができた日なたの勝ち組と適応できなかった日陰の負け組との色分けをますます鮮明なものとした。この結果、 両者の格差は急激に拡大し、“都市部と農村部”や“沿海部と内陸部”の所得格差にとどまらず、業種間、さらには同業種間の給与格差にも及ぶこととなった・・・とある。


中国も経済成長とともに格差社会が生まれた。そのため、「自分が得ている給与は社会全体でどのレベルにあるのか知りたい」という強い欲求が被支配層に生まれ、それを解決したのがインターネットだったというわけだ。日本でも、中国と同じように「給与明細を他人にぶっちゃける」行為は、ネット上で常習化していくのだろうか?資本主義社会の生んだ「格差社会」の徒花のようなものに感じてならない。その現象は、社会の進化ではなく、後退だと思う。


「給与明細を他人にぶっちゃける」行為のやりとりは、結局、民間企業の給料を底上げすることには繋がらない。自由に、自分の給料を上げて行くという自由競争の場を自らが奪うことに直結することを当の本人達は、気づいていない。



中国で「晒工資」が流行する前から、「給与明細を他人にぶっちゃける」のは、とても良いことですと推奨しているところがある。そこのホームページには、こんなことが明記してある。


給与明細を見せ合おう
職場の中で、同年同期の同僚、同じ仕事をしている人、勤続年数の異なる人と、給与明細を見せ合いましょう。給与明細は他人に見せるものではない、と思わされているのは、会社が好きなように給料を決めるためでしかありません。
数名の給与明細をつき合わせたら、
●勤続年数による賃金の違いがわかりますか?
●給料の違いの合理的な内容がわかりますか?
●給料明細の項目の違いはありませんか?
お互いに疑問に思うことを書き出して見ましょう。
※「全労協全国一般東京労働組合三多摩地域支部」ホームページより

「給与明細を他人にぶっちゃける」という行為は、資本主義が生んだ格差社会の結果として行為なのだが・・・ぶっちゃけあってる本人達は、無意識だとは思うのだが、その先には、共産主義・社会主義の思想が見え隠れする。日本の資本主義経済が、ここ数年、進化を遂げなかった結果が、日本版「晒工資」であるのではないだろうか?


阪急グループ創始者の小林一三さんは、「お金」についてこんな格言を遺しておられる。
「金がないから何もできないという人間は、金があっても何もできない」。


給与明細をぶっちゃけてバッシングしたり、他人を羨んだりしている間は、何も起こらない。むしろ、資本主義経済を後退させている。
我々が、格差社会を「給与=お金」のことだと思いこみ、その「明細」のチェックに余念がなくなったら、労働意欲や、向上心は、絶対削がれる。変革の意欲なんて生まれてくるわけがない。格差社会は、意欲の差が生み出している。「政官財」の利権を守る意欲の方が、常に国民の変革意欲より高いから、何も変わらない。


お金がないからって、給与明細をぶっちゃけていては、格差社会の思うつぼだ。

執筆者: 中村修治/へそ社長